長期休暇中に歴史的名著を読んでみたいなあ
学術書って長いし難解だから挫折しそう
こんなふうに考えているあなたにおすすめなのがエンゲルス著「空想より科学へ」です。
世界史の授業で聞いた記憶がある方もいるのではないでしょうか?
本記事では「空想より科学へ」の感想、要約を記した上で、学術に詳しくないかたにもおすすめできる理由を解説します。
「空想より科学へ」の概説
「空想より科学へ」は、フリードリヒ・エンゲルスによって著された科学的社会主義のパンフレットです。19世紀ドイツで社会主義を広めるために出版されました。
その後、世界各国の言語に翻訳され、世界で一番読まれた社会主義文献として知られています。
「空想より科学へ」はエンゲルス著「反デューリング論」の重要部分の抜粋からできています。
反デューリング論は、ベルリン大学私講師オイゲン・デューリングが展開する独自の社会主義理論に反論するためにエンゲルスが執筆したものです。
エンゲルスとは
エンゲルスはドイツの思想家、政治哲学家です。
共産主義者であり、世界的に労働運動を指導しました。
「資本論」で有名なカール・マルクスとは深い交友関係にあり、共同して労働運動、共産主義運動に尽力しました。
「空想より科学へ」の要約
「空想より科学へ」は1空想社会主義、2弁証法的唯物論、3資本主義の発展の三章から構成されます。
1、空想社会主義
社会主義思想の出現
第一章は社会主義の原型である空想社会主義の起源の解説からはじまります。
近代社会主義は、資本家階級と労働階級の対立および生産の無計画性をみて生まれた理論です。
「生産の無計画性」とは市場経済では不況による経済混乱が不可避ということです
フランスの初期社会主義者たちは国民の理性に訴え、階級社会を解体することを目指しました。
しかし、エンゲルスは彼らを「空想社会主義者」と称して彼らの理論を批判しました。
その理由は、次の通りです。
- 空想社会主義者がめざした理性的国家はブルジョアに有利な国家に過ぎない
- 階級を破壊するだけの社会的基盤が労働者にない
1についてはフランス革命をイメージするとわかりやすいです。
フランス革命時に編纂された「ナポレオン法典」は封建時代の法律よりは理性的ですが、所有権の絶対性や財産の自由から、貧富の差は拡大しました。
2、は次のような趣旨です。すなわち、資本主義が発展し、資本家と労働者の分裂が加速するにつれて、労働者が団結し資本家に対抗しうるようになるということです。
エンゲルスは空想社会主義者が活躍していた時代には労働者階級にそのような力はなかったと主張しました。
代表的な空想社会主義者の紹介
1章の後半でエンゲルスは代表的なフランスの空想社会主義者を紹介しました。
エンゲルスは彼らの理論について、空想的ではあるが社会主義の発展に貢献したという旨の評価をしました。
2、弁証法的唯物論
2章においてエンゲルスは形而上学を批判し、弁証法的唯物論が歴史理解において不可欠だ説いた。
形而上学とは、かたちのない概念について研究する学問です。
たとえば、デカルトの「我思ふ、故に我あり」も形而上学的な考え方です。
形而上学的な考え方だと、ひとつひとつの事象を独立して捉えてしまうため、正しく歴史を理解できないとエンゲルスは述べました。
そこで、エンゲルスは弁証法的唯物論を主張しました。
弁証法とは「正」と「否」の対立から、より高次な「合」が生じるという考え方です。
弁証法についてはこちらの記事がとてもわかりやすいです。
唯物論とは感覚できるものから精神がなりたつとする考え方です。
エンゲルスは歴史理解に弁証法的唯物史観を適用し、次のように主張しました。
すなわち、従来の一切の歴史は、階級闘争の歴史であるということです。また、その闘争は、その時代の経済的諸関係の産物であるということです。
つまり、ある時代において、経済構造が政治制度、法制度、哲学、宗教をふくめた現実世界を規定するとエンゲルスは説きました。
また、資本家の労働者に対する搾取について、空想社会主義者は十分な説明をしていないことを批判した上で、その正体は余剰価値であるとしました。
余剰価値が有産階級の手中に積み重なることで、資本家と労働者の格差が拡大するということです。
3、資本主義の発展
三章でエンゲルスは弁証法的唯物論の観点から資本主義を分析しました。
エンゲルスの唯物史観において、歴史は経済的諸関係の産物とされます。
そこで、エンゲルスは次のように考察しました。
「生産物の分配、階級あるいは身分というような社会的編成は、何がいかに生産されるか、その生産物がいかに交換されるかによって決まる。」
「空想より科学へ」(エンゲルス)岩波文庫、p65,
つまり、モノの生産方法と交換方法によって社会制度や文化、宗教までもが基礎づけられるということです。
そして、資本主義は次のような歴史的発展をとげるとエンゲルスは説きました。
A、生産手段から生産者の分離
モノの生産過程において、生産手段(手づくり→工場)から生産者(職人→労働者)が切り離されます。
それにより、労働者と資本家が対立します。
余剰価値が資本家に集中するからです。
B、商品生産の拡大と競争
効率的な商品生産を実現するため工場内では生産方式が組織化されます。
一方で社会全体において、商品生産は無政府的に行われます。
C、機械の改良、生産力の向上
さらなる商品生産の効率化のため、機械の改良が進みます。
D、市場の拡大<生産力の向上、資本の集中
市場の拡大速度よりも、生産性が上がる速度が勝ります。
その結果、商品生産が過剰になります。そして失業者が増加し、恐慌に陥ります。
このような、生産手段(労働者)と生産物(商品)が資本に転化しない状態を、エンゲルスは「生産方法の交換形態に対する叛逆」と称しました。
恐慌によって企業は倒産し、トラストを組んだり、大企業に吸収されざるを得なくなります。
その結果、さらに資本の集中が進みます。
大企業さえ営業が立ち行かなくなれば、国家が企業の活動を代替わりします。
しかし、これも根本的解決にはなりません。
なぜなら、近代国家は国家はブルジョワの利益保護を目的に作られたからです。
したがって、国民は国家により搾取されるとエンゲルスは説きました。
☆プロレタリア革命
プロレタリアート(労働者階級)ブルジョワジーから公的権力を奪還します。
そうすることで、生産手段(労働)が持っていた資本という性質から生産手段を解放できるとエンゲルスは説きます。
つまり、労働者の労働が資本家の余剰利益に繋がらなくなります。
さらに、商品が計画のもと生産されるようになり、恐慌や失業がなくなるとエンゲルスは主張します。
そして、私有財産の保護主体たる国家も消滅するとされます。
↓デカルト「方法序説」の要約・感想はこちら
「空想より科学へ」のおすすめポイント
ページ数が少なめで読み切りやすい
岩波文庫の「空想より科学へ」は訳者序文から付録の「英語版の序文」まで約130ページで読み切りやすいです。
↓本の厚さもこの程度です。
比較的平易で読みやすい
「空想より科学へ」は労働者階級向けに出版されました。
したがって読解に必要な予備知識は少ないです。
「空想から科学へ」の感想
市場経済のなかで生活し資本主義的な考え方にとらわれがちなわたしたちにとって、社会主義の名著に触れることは有益だと感じました。
また、マルクス・エンゲルスの社会主義理論にはさまざまな批判がなされています。
たとえば、ハイエクは計画経済について、国民のニーズを満たせないと主張しました。
さらに、唯物史観については、経済が美術や宗教の基礎を形作るという点に対してその真偽がに議論を呼んでいます。
これらの意見を念頭に本書を読解すれば、多角的な視点が身につくように感じました。
コメント
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